アフターコロナでオンライン会議の習慣定着と出社率の再上昇が混在する現在、多くの企業が抱える問題が「音漏れ」です。音漏れ対策が不十分な状態では、社員の集中力を欠いて生産性が下がるほか、オンライン会議中の思わぬ情報漏えいのリスクも高めてしまいます。
今回は、個人・オフィスそれぞれができる音漏れ対策を、注意点や工事事例も併せてご紹介します。
昨今のオンライン会議とオフィスを取り巻く問題
新型コロナウイルスの流行をきっかけに働き方が大きく変わり、アフターコロナの現在もオンライン会議の習慣を残す企業が増加しました。その結果、社内の会議室が足りなくなり、争奪戦になるなどの問題が多発しています。また、「1人で会議室を使うのは気が引ける」といった理由で、会議室の使用を控えてしまう方も少なくありません。
結果として、自席からオンライン会議に参加する社員も多いのですが、そこで問題となるのがノイズです。オフィスでは雑談やキーボードを叩く音、咳などの雑音が発生しやすく、集中を妨げる原因になります。また、オンライン会議に参加中の社員が近くにいるせいで過度に気遣ってしまい、ストレスを溜める社員が発生しがちなことも、オンライン会議とオフィスを取り巻く問題のひとつです。
音漏れがするオフィス環境でオンライン会議をするデメリット
音漏れは、スムーズで効率的なオンライン会議を妨げる原因となるほか、企業への信頼を低下させる原因にもなりかねません。音漏れがする環境でオンライン会議をするデメリットを3つご紹介します。
<音漏れがするオフィス環境でオンライン会議をするデメリット>
・オンライン会議に集中できない
・クライアントへの情報漏えいにつながる可能性がある
・プライバシーが守れずストレスにつながる
オンライン会議に集中できない
音漏れがするオフィス環境では、雑音のせいでオンライン会議に集中できません。参加者の作業効率が悪化することに加えて、別の参加者の発言を聞き逃すリスクもあります。
また、周囲で働く社員の集中力を乱しやすいこともデメリットです。オンライン会議では、気付かぬうちに声が大きくなる場合も多く、通常業務を行っている社員のストレスにもつながりやすいでしょう。
クライアントへの情報漏えいにつながる可能性がある
社員同士または取引先との会話が漏れてしまい、情報漏えいにつながる可能性があることもデメリットです。クライアントの情報が漏れた場合、企業の信頼度が低下するリスクがあります。また、自社の機密情報が流出し、取引で不利が生じる恐れもあるでしょう。
プライバシーが守れずストレスにつながる
社員がプライバシーを守れず、ストレスを抱える可能性があることもデメリットです。例えば人間関係の悩みを相談したい社員がいる場合、音漏れで会話の内容が周囲に伝わるリスクがあると、相談そのものをしづらくなるでしょう。
個人でできるオフィスでのオンライン会議の環境作り
オンライン会議をしやすくするための環境作りは、個人レベルでも行えます。すぐにできる具体的な対策として、以下の3点をご紹介しましょう。
<個人でできるオフィスでのオンライン会議の環境作り>
・単一指向性・ノイズキャンセリング機能付きのマイクを利用する
・ヘッドホンを利用する
・オンライン会議用のサービスでバーチャル背景やオーディオ設定を利用する
単一指向性・ノイズキャンセリング機能付きのマイクを利用する
マイクには大きく3つの指向性があり、それぞれ以下のように特徴が異なります。
【マイクの指向性の種類と特徴】
種類 | 特徴 |
---|---|
単一指向性 | マイク正面の音だけを収音する |
双指向性 | マイク正面に加えて後方の音も収音する |
無指向性 | 音の方向を問わずに収音する |
単一指向性のマイクを使用すれば、自分の声だけを収音できるため、左右や後方の雑音が収音されにくくなります。
また、ノイズキャンセリング機能付きのマイクもおすすめです。ノイズキャンセリング機能とは、収音時に周囲の雑音を自動的にカットする機能であり、クリアな音声が伝わりやすくなります。そのため、オンライン会議への参加中に、大きな声を出す必要がなくなるでしょう。
ヘッドホンを利用する
ヘッドホンを利用すると、スピーカーを使う必要がなくなるため、周囲に音漏れが起こりません。マイクがスピーカーの音を拾って拡声する「ハウリング」を抑えられることも、ヘッドホンを利用するメリットです。オンライン会議の参加者自身も、他の参加者の発現を聞き取りやすくなるため、ストレスを感じにくいでしょう。
オンライン会議用のサービスでバーチャル背景やオーディオ設定を利用する
バーチャル背景を利用すると、現実の背景が消えるため、周囲に人がいても気にせずオンライン会議に参加しやすくなります。他の参加者もオンライン会議に集中しやすくなり、相乗効果が期待できるでしょう。
また、Zoomをはじめとするオンライン会議用のサービスは、オーディオ設定に対応しているケースが多いです。ボリュームを調整したり、雑音を抑制する機能をオンにしたりして対策すると良いでしょう。
オフィス全体の音漏れ対策①工事
音漏れ対策は個人レベルでも可能ですが、それだけで根本的な解決へとつなげることは困難です。より効果を高めるために、オフィス全体の音漏れ対策も検討しましょう。この項目では、工事で音漏れ対策をするメリットや注意点、そして手法例や工事事例をご紹介します。
<オフィス全体の音漏れ対策①工事>
・音漏れ対策の工事の手法例
・工事でオフィスの音漏れを対策するメリット
・工事でオフィスの音漏れを対策する際の注意点
・音漏れ対策の工事事例
音漏れ対策の工事の手法例
オフィス全体の音漏れ対策ができるに越したことはありませんが、音漏れ対策の工事には一定の費用がかかります。そのため、特に音漏れ対策が必要な箇所から優先的に工事を行うのがおすすめです。音漏れ対策の工事の場所候補を4つご紹介します。
<音漏れ対策の工事の場所候補>
・場所候補①会議室
・場所候補②応接室
・場所候補③社長室
・場所候補④リフレッシュルームに隣接している部屋
場所候補①会議室
会議室では、重要な意思決定や社外との打ち合わせを行う機会が多いため、優先的な音漏れ対策が必要です。議論が白熱すると声が大きくなりやすく、近くの部屋や廊下に音漏れするリスクがあります。会議に参加した社員が集中して議論できるように、音漏れ対策を徹底しましょう。
場所候補②応接室
応接室には顧客が出入りすることが多く、情報漏えいが起こりやすい場所とされています。音漏れ対策が十分に行われていれば、顧客も安心して打ち合わせや商談に臨めるでしょう。顧客を不安にさせないためにも、優先的に音漏れ対策をすべき場所と言えます。
場所候補③社長室
社長室では、会議室と同様に重要な意思決定が行われます。経営情報に関する機密情報を取り扱う機会も多く、音漏れ対策の優先度が高い場所のひとつです。情報漏えいは企業の信頼度を下げる原因になるため、音漏れ対策を欠かさぬようにしましょう。
場所候補④リフレッシュルームに隣接している部屋
社員が休憩用に利用するリフレッシュルームに隣接する部屋も、音漏れ対策が必要な場所と考えましょう。リフレッシュルームは社員がリラックスして過ごすための空間であり、仕事とのオン・オフを切り替えられる部屋でなければなりません。周囲の雑音が室内に届かないように、音漏れ対策が必要です。
工事でオフィスの音漏れを対策するメリット
工事でオフィスの音漏れ対策を行うメリットは、次の4つです。
<工事でオフィスの音漏れ対策をするメリット>
・グッズで対策をするよりも効果的な場合が多い
・部屋自体に対策をするため、追加で機器を購入する必要がない
・「工事をした部屋を使う人」と「工事をした部屋に近い部屋にいる人」の両方が仕事に集中できる
・機密情報や個人情報が漏えいしにくく、安心して利用できる
防音工事は根本的な問題解決につながりやすく、音漏れ対策グッズを利用するよりも効果的でしょう。手持ちのマイクやスピーカーの性能に依存しないため、買い替えも不要です。
工事でオフィスの音漏れを対策する際の注意点
工事で音漏れ対策をする注意点は次のとおりです。
<工事でオフィスの音漏れを対策する際の注意点>
・完璧に音漏れを防ぐのは難しい
・防音度合いの感じ方には個人差があるため、必ずしも期待値を超える結果にはならない
・対策場所を誤ると効果を発揮しづらい
・費用対効果の説明が難しい
・工事内容によってはビル側から許可が下りない場合がある
・躯体に手を加える工事を行うと原状回復費用が高額になる
例えば天井から音が回り込む騒音に対して、壁に吸音パネルを貼り付けるといった工事をしても意味がないため、適切な工事を依頼することが重要と言えます。下の階と上の階の間に壁を作る「スラブtoスラブ」などの工事は、ビル側の許可が下りない場合があるため、確認が必須です。
音漏れ対策の工事事例
e-sports配信スタジオを構える「GameWith ARTERIA様」の工事事例です。防音壁には20cmの厚みを設けており、さらに防音扉を設置して防音性を高めています。
また、スタジオ内には反響音を抑えるための吸音材を設置しています。さらにスタジオに隣接するオペレーションルームのガラスも数度傾け、音の反響が天井に跳ね返るように設計しており、室内の音が外部に漏れないように対策しました。
オフィス全体の音漏れ対策②オンライン会議用に箱型のブースを導入する
オフィスの工事が難しい場合は、オンライン会議用のブースを導入する音漏れ対策が有効です。ブースは箱型の物が多く、電話ボックスのような1人用のタイプだけでなく、机や椅子が設置された数名用のタイプもあります。箱型のブースを導入するメリットや注意点、導入事例を見ていきましょう。
<オフィス全体の音漏れ対策②オンライン会議用に箱型のブースを導入する>
・オンライン会議用に箱型のブースを導入するメリット
・オンライン会議用に箱型のブースを導入する際の注意点
・箱型のブースの導入事例
オンライン会議用に箱型のブースを導入するメリット
箱型のブースを導入するメリットは次のとおりです。
<オンライン会議用に箱型のブースを導入するメリット>
・音漏れの悪影響が減り、執務室の空間が静かになる
・オンライン会議中に、人の往来や声の大小を気にせずに済む
・ブースを設置することにより、オンライン会議用のスペースを明文化できる
・オフィスに投資していることを社内外へアピールできる
・オフィス移転をした後も利用できるため、資産になる
社員がオンライン会議へ快適に臨めるだけでなく、オンライン会議用のスペースを明文化でき、通常業務とのゾーニングができることもメリットです。また、社内外へのアピールによりブランディングにもつなげられることに加えて、引っ越し後もそのまま利用できるため、ブースそのものが資産にもなります。
オンライン会議用に箱型のブースを導入する際の注意点
オンライン会議用に箱型のブースを導入する際は、次の点に注意しましょう。
【オンライン会議用に箱型のブースを導入する際の注意点】
設置上の注意
・消防法により設置できない地区やビルがある
・設置場所によってはブース内の気温が高くなる
・複数台を設置する場合、コストがかさみやすい
・移転時には解体や組み立ての費用がかかる
運用上の注意
・独占等を防ぐためのルール整備が必要
・長時間の居座りが発生するリスクがある
・環境美化やルールの明文化が必要
地区やビルによっては法的な問題で設置が認められない場合があるため、導入前に消防法の確認が必須です。ある程度の量をそろえる場合は、予想外に高額なコストがかかる恐れもあるため注意しましょう。
運用面では、オンライン会議以外の利用が多くなったり、独占されたりする場合があることに注意が必要です。ブースの利用ルールを決めて、周知する必要があります。
箱型のブースの導入事例
全面的なフリーアドレスを導入した「HITOWAホールディングス株式会社様」の導入事例です。混ざり合った人同士の化学変化を誘発させるねらいを持ち、オフィス内は壁を最小限に抑えて、空間を広く使っています。
特徴的なのは「AWDワークスペース」の存在です。WEBブースから打ち合わせスペース、集中スペースを区分けして設置しています。社員が業務内容や気分に合わせて働く場所を決められ、時代に合わせたハイブリッドなワークスタイルを促すことが可能です。
オフィス全体の音漏れ対策③パーティションや吸音パネルなどの防音アイテムを導入する
より低コストかつ速やかに音漏れ対策をしたい場合は、防音アイテムを導入する方法が有効です。
内部空間を分割する「パーティション(パーテーション)」は、部屋のレイアウトを簡易的に変更できるアイテムで、顧客との打ち合わせスペースを作るうえで役立ちます。ドアの隙間に「防音テープ」を貼るだけでも、音漏れの防止に役立つでしょう。
その他にも「防音カーテン」や「防音パネル」といった防音アイテムがあり、防音したい部屋に設置すると音漏れ対策の効果が見込めます。いずれも繰り返し使えるアイテムであり、オフィス移転後も再利用できるほか、原状回復費用がかかりにくいこともメリットです。
防音アイテムの特徴や導入事例について、さらに詳しく見ていきましょう。
<オフィス全体の音漏れ対策③パーティションや吸音パネルなどの防音アイテムを導入する>
・防音アイテムで簡易的に対策するメリット
・防音アイテムで簡易的に対策する際の注意点
防音アイテムで簡易的に対策するメリット
防音アイテムを使って簡易的にオフィスの音漏れ対策をするメリットは、次のとおりです。
<防音アイテムで簡易的に対策するメリット>
・導入コストが安いため、気軽に音漏れ対策ができる
・取り外しや移設がしやすいアイテムが多く、簡単に転用できる
・防音アイテムの購入後、すぐに音漏れ対策ができる
・商品によっては意匠性も付与できる
導入事例としては「スミセイ情報システム様」のオフィスをご紹介できます。会議室の側面に、想像力を掻き立てるアートのようなグラフィックシートや吸音パネルを使用しました。遠慮のない活発な議論を引き出せる仕様でありながら、意匠性を高めることにも成功しています。
防音アイテムで簡易的に対策する際の注意点
防音アイテムを活用する場合の注意点は次のとおりです。
<防音アイテムで簡易的に対策する際の注意点>
・工事や箱型ブースの導入と比較して、防げる音漏れに限界がある
・防音性能に過度な期待はできない
・声が大きい人には声を抑えてもらうなど追加の対策や工夫が必要
低コストかつスピーディーに対応できることが防音アイテムのメリットですが、性能には限界があります。本格的な音漏れ対策がしたい場合は、工事や防音ブースの導入を検討しましょう。
オフィスの規模から見る音漏れ対策の選び方
ここまでにご紹介した3つの音漏れ対策のなかからどの種類を選ぶべきか悩んだ場合は、オフィスの規模から逆算して対策方法を選ぶのがおすすめです。
<オフィスの規模から見る音漏れ対策の選び方>
・音漏れが悩みの種でオフィス移転を検討している場合…工事がおすすめ
・すでに移転済で会議室が少ないという声が出ている場合…防音ブースの導入がおすすめ
・低コストで対策したい場合や、現時点で大きな課題がない場合…防音アイテムの使用がおすすめ
まとめ
オフィスの音漏れ対策を行うことにより、社員がオンライン会議に集中しやすくなるほか、情報漏えいのリスクも抑えやすくなります。
オフィス全体の音漏れ対策として効果的な方法は「工事」「箱型のブース」「防音アイテム」の3つです。オフィスの規模や課題から最適な音漏れ対策を実施して、社員がより働きやすく、社外からの信頼も集めやすい環境を構築しましょう。