こんにちは、オフィス・ラボです。
「DESIGNER'S REPORT」は、空間デザイナー目線で、働く場にまつわる様々なことについて、考察していくレポートです。
「100社100通り」のオフィス創りを常々心がけています。
そんな働く空間が、どのように創られているのか、今回も事例を通じてご紹介していきます!
今回はオフィスの中に作る撮影スタジオについて、機能と事例を紹介させていただきます。
はじめに
コロナ禍以降、あらためて「つながり」や「つなぐ」関係性に注目が集まっています。
様々な働き方の変化において空間の利用価値も変化しています。
快適+有効活用という観点では、オフィス整備が重要になってきます。
そこで、先進的なオフィス整備の取り組みであり、新たなオフィススタンダードである「オフィス・スタジオ」にフォーカスしていきます。
使われなくなった会議室等を活かしてスタジオを作ることで、空いたスペースの有効活用にもなります。
会議室をスタジオとして使う場合、そのままでも使えるのか?
音漏れや反響の問題はどうしたらよいのか?といった疑問も多々あると思います。
本記事では、実際の事例を交えながら、スタジオ作りのポイントを解説していきます。
スタジオの種類
スタジオと一口で言ってもいろいろな種類の撮影があります。
自社製品の撮影をしたり、スチール映像撮影を行ったり、音声のレコーディング、動画配信など、企業のサービス、製品によってさまざまです。
そしてその撮影の種類によって音楽やナレーション、音が大きく出る撮影、音声はあまりでない静かな撮影があります。
撮影の種類によって、求められる遮音性能は変わってきます。
遮音性能
遮音性能については表す基準として、日本建築学会のDr値という評価値があります。
隣り合う部屋同士(2室間)の遮音性能を評価するための指標として設定され、「D-65」「D-60」というように数字によって等級を表します。
壁から入っていく音(入射音)が、壁を通り抜けたあと(透過音)ではどれくらい小さくなるか=遮断するかを測定し、差分となるdBを指標化したものがDr値となります。
数字が大きければ大きいほど遮音性能があります。
普段、オフィスの壁に使われているスチールパーティションでDr-35、LGS下地石膏ボードの在来工法(※以下LGS壁)の壁でDr-45程度と言われています。
映画館等ではさらに上のDr-75程度が必要になります。
写真撮影等の音の出ない撮影では通常のスチールパーティションで問題ないですが、音の出る撮影に関してはDr-50以上が必要といわれています。
数値と現実について
最新のオフィスビルの天井は、パネルを固定していない構造(システム天井)になっています。
簡単に外して工事をしやすくするためのものでありますが、遮音性はありません。
また換気設備等で隣の部屋同士が繋がっており、天井やOAフロアの下は筒抜けの状態です。
そのため、床上から天井下の間にどんなに厚い壁を建てたとしても、天井内の繋がった設備を通じて、隣の部屋に音が伝わってしまいます。
そのためオフィスビル内のスタジオは、数値通りの設計をしたからといって、100%その数値を担保した部屋ができるとは限らない、ということを念頭においていただきたいです。
周りの環境に影響を受けやすく、あくまで数値は目指すべき指標としてとらえることが、オフィスビルとしての限界であることをご留意ください。
ここからは実際に作った撮影スタジオの中から、具体的な内容と共に、2つ事例をご紹介させていただきます。
事例紹介①
自社のイラスト、漫画制作のソフトを使った動画の撮影をするスタジオです。
動画では音がほとんど出ないため、通常のLGS壁にグラスウール(吸音材)を入れ、スチールパーティションのセミエアタイト仕様のドアで設計しました。
手元や背景が映るため、素材にこだわっています。
テーブルは造作で、天板は数多くのメラミン化粧板の中からご選定いただきました。
チェアの張地も、国内メーカーの中からいくつかご提案させていただき、イメージに合うモノをご選定いただいており、こだわりの色合いとなっております。
機材によっては50kgを超える事もあるとのことで、重量にもしっかり耐えられる設計となっています。
壁は塗り壁(ジョリパッド)を採用しており、360°どこが映っても映えるスタジオです。
窓枠もなるべく既存のアルミサッシが見えないように、テーブルと同じメラミン化粧板でカバーを製作させていただきました。
また窓台もなるべく見せたくはないというご要望の中で、窓台にある空調の点検ができるよう、正面のパネルを外せる構造となっており、必要時には中の点検ができるようになっています。
窓からの外光の入る明るいスタジオで、グリーンバックを使った撮影をすることもできます。
1面棚のついた壁もあり、小物を飾ることもできます。
オペレーションルームを挟んで両側に一部屋ずつ撮影室を配置しています。
オペレーションルームと撮影室はガラスで繋がっており、撮影の様子を確認しながら指示だしや音響の調整ができるようになっています。
通常の撮影室は反響を抑えるため、床をタイルカーペットにすることが多いですが、先述のデザイン性の部分を担保するため、今回は塩ビタイルを採用しました。
天井はライティングレールがついており、照明を撮影に合わせながら移動することができます。窓際のカウンターに付けた丸いペンダントライトもポイントになっています。
事例紹介②
こちらはe-Sportsの配信スタジオになります。
壁は20cmの厚みがあり、音楽室などに使われる防音扉を設置し、十分な遮音性能を持たせ外部からの影響を受けない最適な撮影環境を備えています。
黒を基調としたカラーリングで、e-Sports感のある先進的でスタイリッシュなデザインでまとめています。
照明にもこだわっており、スタジオの壁面の造作照明は、コントローラーでRGBを調整することができます。こちらは設計段階からモックアップ(実寸大の模型)を製作し、サイズ感や壁からの距離等、こだわりながらつくりました。
スタジオでの撮影を見ることのできる観戦室は、天井のダウンライトをRGBに変えることができる調色照明となっています。
スタジオ内は反響音を抑えるため、撮影面以外の3面には吸音材を張り込み、天井にもパネル材を吊っています。
スタジオに隣接するガラスは数度傾け、音の反響が天井側の壁に跳ね返り吸音パネルに吸収されるよう設計しています。
グリーンバックだけではなく、ホワイトバックも設置しており、レールがそれぞれについているため、使わないときは寄せてしまい、使うときは引くだけですぐに出せるようになっています。
スタジオには55インチの3面モニターがあり、その画面を各スペースのモニターで同じ映像が見えるように、床下、壁面に多くの配線が仕込んであります。
通常の場合後からでも床下の配線は可能になりますが、今回はグラスウールの敷き詰めやスラブからの壁の設置等があったので、あとからの施工が難しく、事前にお客様と配線ルートについて確認を行い、配管を通すことでご要望のルートを確保しています。
スタジオ入り口にはON AIRのサインも設置させていただきました。
オペレーションルーム内のスイッチを押すことで点灯することができます。
また撮影室の他に演者の方の待合スペースもあります。
ゆったりとしたソファに、グリーンやアロマを設置し、くつろげるスペースとなっています。
オフィス・スタジオ導入のポイント
ここまで事例を紹介させていただきましたが、オフィス・スタジオ導入におけるポイントを3つにまとめてみました。
①必要な機能を決める
・遮音性能の目安をきめる
まず一番重要な部分です。遮音性が上がるにつれ、工事も大掛かりになり、必要な金額も上がってきます。
撮影の頻度はどれくらいか、外部スタジオを借りることも1つの手です。どのような撮影をするのか一度洗い出し、必要な性能を決めましょう
・吸音計画をしっかりとする
しっかりとした防音スタジオを作ったのならば、セットで吸音することを考えなければいけません。
遮音だけして、吸音をおろそかにすると、音が反響してしまい聞き取りづらいスタジオになってしまいます。
タイルカーペットや布クロス等、素材自体が柔らかく吸音するものを選ぶ、天井壁面に吸音パネルを設置する等、しっかりとした計画を行いましょう。
②オフィス・スタジオを社内に導入するメリット
・外部のレンタルスタジオにかかる費用を抑えられる
・テレワークの普及でオフィスの空いたスペースを有効活用できる
・収録・配信以外にも、WEBミーティングやプレゼンテーションで利用することができる
・SNS等の発信の撮影にも使うことができる
・リクルート用の写真、動画撮影としても活用することができる
③これからのオフィス・スタジオ
テレワークが普及してきた一方、オンライン化によるコミュニケーション不全が顕在化しつつあり、企業はITツールを活用しながら、特に社外向けの情報発信を意識し、顧客とのつながりを作る必要があります。
そのためには、事例で紹介したような配信スタジオは今後ますます重要性が高まっていくと考えられます。
新しいコミュニケーションの拠点としてぜひオフィス・スタジオの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
スタジオを作るにあたってこだわるポイントは沢山ありますが、まずはどういった撮影を行い、どれくらいの遮音性能が必要なのか、しっかりと決めていくことが大切です。
遮音については、ショールーム等のご案内も可能ですので、一度ご体験いただくことで、よりイメージがわきやすいかと思います。
オフィス・ラボではお客様との二人三脚で、100社100通りのご提案に日々挑戦しています。
働き方について日々研究をし、試行錯誤を繰り返しています。
オフィスだけでなく、本件のような「働く空間」全般のプロデュースが私たちの得意分野です!
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